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| 金子兜太の「東国抄」 |

東国抄は「海程」に掲載中です
2010年8.9月号 東国抄 242 金子兜太
車窓に近く夏の山国の人たち
少年ありき楊梅(やまもも)のここだくありき
蜥蜴走るやはり楊梅の方へ
小学生に田植えの時間われ眠る
乾く乾く地面(じづら)も皮膚もでで虫も
野萱草鳥の目もわが眼もここに
この車輛子ども五月蝿い梅雨出水
2010年7月号 東国抄 241 金子兜太
井上ひさし他界
白鳥去り野道とぼとぼわが一茶
橋本土好子他界
疳高い電話の声よ遠桜
やまびと
養花天山人蟹を探しおる
散ることなし満開の桜樹に寝て
とねりこ咲き亡き妻の眼鏡が光る
伊勢志摩にて(二句)
俯伏せのわれに海光花は葉に
島の校長背高訥弁海苔が好き
2010年6月号 東国抄 240 金子兜太
わが新月傾ぶきて春の尾根照らす
ふらここが亡妻(つま)の向こうで揺れている
竹藪に覗くよ幼き日のふらここ
全山の雑木芽ぶきて無邪気かな
裏山に花粉吐く杉君臨す
黒文字に黄の花されば黄の濃さよ
花は葉に人声虫の声ほどに
2010年5月号 東国抄 239 金子兜太
日野原重明氏と対談(三句)
明るさよ薄氷の街大股に
青き踏む明快に歩きて止まず
白寿越えて紅梅木五倍子咲くままに
川崎展宏他界
冬樫の青しよ展宏の笑顔
雑木林に手指屈伸の春だ
山羊と遊ぶ狸もありて遍路行く
春の駅一人の声が馬鹿でかい
2010年4月号 東国抄 238 金子兜太
武蔵野にわが卒寿あり寒紅梅
マスクのわれに青年疲れ果てている
五獣奏(五句)
わが虎の秩父遍路のあと深酒
わが猪の猛(しし)進をして野につまづく
わが狼朝ごと音痴の唄唸る
わが犀のにこり振向く霜野かな
わが羊毛深かかりしがいま乏し
2010年2.3月号 東国抄 237 金子兜太
去年今年生きもの我や尿瓶愛す
冬眠の蛙芭蕉に風邪薬
秩父盆地皆野小学校はわが母校。そこを訪ねて尿瓶を語る(五句)
後輩と尿瓶に冬のひかりかな
小学六年尿瓶とわれを見くらぶる
山枯れて女子小学生尿瓶覗く
小学生尿瓶透かして枯山見る
われの尿瓶を噴ぎ捨てにして無礼かな
2010年1月号 東国抄 236 金子兜太
秩父にて(五句)
眼の奥に陽光溜めて猪(しし)撃たる
泣く赤児に冬の陽しみて困民史
朝日迎えて僧とその妻むかご炊く
樹頂にとまる冬陽老友耳達し
二日泊りてさるとりいばらの実とも話す
白障子海迫り上るそして去る
比叡の僧霧に鹿呼ぶ仕草して
2009年12月号 東国抄 235 金子兜太
比叡山にて(五句)
学僧の風呂場にいとど無言なり
修行僧鹿走る影を記憶とす
遊行聖に秋の湖光の奢りかな
露の野を女人闊歩し且つ轉び
あけぴの実最澄に似た人の手に
念彿衆稲穂の谷に紛れけり
語り過ぎて臍(ほぞ)をかむなり敗戦忌
2009年11月号 東国抄 234 金子兜太
青葉木菟職失いし人ばかり
仰向けに眠る裸に青胡桃
濁声の旅人毛虫むくむくゆく
竹林を出れば白雲曼珠沙華
稲穂の村猫は撮(つま)まず抱き上げる
敬老も誇老も燕帰る頃
稲稔り奇声とばして人暮らす
2009年10月号 東国抄 233 金子兜太
黒揚羽の訪れ多し牛蛙
まだ蟻に会わぬと思い夢寐にあり
遊民を嫌う棟梁星迎
玉虫も髪切虫も夢の奢り
夏山を人影移り生臭し
朝食べるバナナ亡妻笑いおる
名月や来し方語り語り過ぎる
2009年8.9月号 東国抄 232 金子兜太 南部の国山法師街角に真白(ましろ)
定住漂泊メモばかりして青葉漬け
青菜重なる蚊が殖えた猫の糞も
光浴びて眼底検査夏つばき
細雨頬へかの遺言へ姫柚子へ
ひとり昼の会席食べて白雨かな 笙の銘は交絵丸(まじえまる)なり緑叢なり
2009年7月 東国抄 231 金子 兜太
戦さあるなと逃げ水を追い野を辿る
みちのくに来て切株と草餅
花片栗ゆっくり行けば智慧が出る
黄のタオル春陰三日ほどつづく
東一華と僧が呟く妻は亡し
子どもに髭歯科いっせいに夏の花
睡り埋める夏草の鮮訪うべくも
2009年6月 東 国 抄 230 金子 兜太
緑泥片岩春の蛇来る愛籠めて
秩父国民党ありき蚕飼を急ぐ家
のつそりと山霊逃水の河原
大学生みなつぶやきて春の霧
青年あり髯大切にえご咲かす
五月来るこめかみ頂丹田洗礼す (こめかみは漢字です)
鳥躍るわれも青嵐のなすまま
2009年5月 東 国 抄 ・ 229 金子 兜太
阿部完市2月19日他界(2句)
完市よ菜の花も河津桜も雨
河津桜も我も濡れいし暗雨かな
水鳥すべて池心に向う何の予感
水鳥に石放うらんとして耐える
山峡に月の出待ちし少年ありき
面倒くさいと言う癖つきてとんど焚く
失業し春の鴉の森にいる
2009年4月 東 国 抄 ・ 228 金子 兜太
初富士と浅間山(あさま)の間青し両神山(りょうがみ)
三日吹いて北西すべて雪山なり
一茶もわれも世紀跨いで寝正月
息子夫婦に身柄預けて初日記
枯芝に母と赤ん坊ごろごろす
祖母ありき飲食(おんじき)お喋り日向ぼこ
独り者殖え冬園にカイト飛ばす
2009年2.3月 東 国 抄 ・ 227 金子 兜太
床の間に大蜘昧垂れて羽黒山(はぐろ)なり
ふと立ちてあと影ばかり冬白波
声美し旅の隣の姫始め
夜の車窓を枯草ばかり群れて過ぐ
三の灯やがて無数の寒灯(かんとも)し
梟鳴く猫とび上るただそれだけ
果てしなく枯草匂う祖国なり
2009年1月 東 国 抄 ・ 226 金子 兜太
粋がって生きております笑初
寒喰と土竜打して加齢かな
両眼にときどき鴉声実千両
海際ばかり明るき伊豆の菊膾
狐狸走るこの山が暖かすぎて 食べすぎて川風寒き寡住〈やもめず〉み
寒露の地に頷く芭蕉いのち短か
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