金 子 兜 太

                                
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金子兜太東国抄  2009~2010年           TOPページへ                





    東国抄は「海程」に掲載中です


    2010年1月号  東国抄 236  金子兜太


     秩父にて(五句)      
    眼の奥に陽光溜めて猪(しし)撃たる

    泣く赤児に冬の陽しみて困民史

    朝日迎えて僧とその妻むかご炊く

    樹頂にとまる冬陽老友耳達し

    二日泊りてさるとりいばらの実とも話す

    白障子海迫り上るそして去る

    比叡の僧霧に鹿呼ぶ仕草して





    2009年12月号  東国抄 235  金子兜太


      比叡山にて(五句)
    学僧の風呂場にいとど無言なり

    修行僧鹿走る影を記憶とす

    遊行聖に秋の湖光の奢りかな

    露の野を女人闊歩し且つ轉び

    あけぴの実最澄に似た人の手に

    念彿衆稲穂の谷に紛れけり
      
    語り過ぎて臍(ほぞ)をかむなり敗戦忌




    2009年11月号  東国抄 234  金子兜太


    青葉木菟職失いし人ばかり

    仰向けに眠る裸に青胡桃

    濁声の旅人毛虫むくむくゆく

    竹林を出れば白雲曼珠沙華

    稲穂の村猫は撮(つま)まず抱き上げる

    敬老も誇老も燕帰る頃

    稲稔り奇声とばして人暮らす




    2009年10月号  東国抄 233  金子兜太 

    黒揚羽の訪れ多し牛蛙

    まだ蟻に会わぬと思い夢寐にあり

    遊民を嫌う棟梁星迎

    玉虫も髪切虫も夢の奢り

    夏山を人影移り生臭し

    朝食べるバナナ亡妻笑いおる

    名月や来し方語り語り過ぎる




    2009年8.9月号  東国抄 232  金子兜太    
 
    南部の国山法師街角に真白(ましろ)

    定住漂泊メモばかりして青葉漬け

    青菜重なる蚊が殖えた猫の糞も

    光浴びて眼底検査夏つばき

    細雨頬へかの遺言へ姫柚子へ

    ひとり昼の会席食べて白雨かな
        
    笙の銘は交絵丸(まじえまる)なり緑叢なり




    2009年7月   東国抄  231   金子 兜太

    戦さあるなと逃げ水を追い野を辿る

    みちのくに来て切株と草餅

    花片栗ゆっくり行けば智慧が出る

    黄のタオル春陰三日ほどつづく

    東一華と僧が呟く妻は亡し

    子どもに髭歯科いっせいに夏の花

    睡り埋める夏草の鮮訪うべくも




     2009年6月  東 国 抄 230    金子 兜太

     緑泥片岩春の蛇来る愛籠めて

     秩父国民党ありき蚕飼を急ぐ家

     のつそりと山霊逃水の河原

     大学生みなつぶやきて春の霧

     青年あり髯大切にえご咲かす

     五月来るこめかみ頂丹田洗礼す
           (こめかみは漢字です)

     鳥躍るわれも青嵐のなすまま



      2009年5月    東 国 抄 ・ 229    金子 兜太
      阿部完市2月19日他界(2句)

     完市よ菜の花も河津桜も雨

     河津桜も我も濡れいし暗雨かな

     水鳥すべて池心に向う何の予感

     水鳥に石放うらんとして耐える

     山峡に月の出待ちし少年ありき

     面倒くさいと言う癖つきてとんど焚く

     失業し春の鴉の森にいる


 
     2009年4月  東 国 抄 ・ 228   金子 兜太

     初富士と浅間山(あさま)の間青し両神山(りょうがみ)

     三日吹いて北西すべて雪山なり

     一茶もわれも世紀跨いで寝正月

     息子夫婦に身柄預けて初日記

     枯芝に母と赤ん坊ごろごろす

     祖母ありき飲食(おんじき)お喋り日向ぼこ

     独り者殖え冬園にカイト飛ばす



     2009年2.3月 東 国 抄 ・ 227  金子 兜太

     床の間に大蜘昧垂れて羽黒山(はぐろ)なり

     ふと立ちてあと影ばかり冬白波

     声美し旅の隣の姫始め

     夜の車窓を枯草ばかり群れて過ぐ

     三の灯やがて無数の寒灯(かんとも)し

     梟鳴く猫とび上るただそれだけ

     果てしなく枯草匂う祖国なり



     2009年1月    東 国 抄 ・ 226    金子 兜太

     粋がって生きております笑初

     寒喰と土竜打して加齢かな

     両眼にときどき鴉声実千両

     海際ばかり明るき伊豆の菊膾

     狐狸走るこの山が暖かすぎて
            
     食べすぎて川風寒き寡住〈やもめず〉

     寒露の地に頷く芭蕉いのち短か






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