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『海程』創刊
海程は昭和37年(1962)4月に創刊。濃紺一色の表紙の上部に海程と大きく白く抜き、右下に創刊号と白く小さく抜いてある。隔月刊で発行者は出沢三太編集者は金子兜太、編集帳は酒井弘司。創刊同人は30名。
『海程』創刊のことば 金子兜太
われわれは俳句という名の日本語の最短定型詩形を愛している。何故愛しているのか、と訊ねられれば、それは好きだからだ、と答えるしかない。日本語について、あるいは最短定型詩の特性についての論理的な究明のあと、この詩形を愛するにいたった―といった廻りくどい道行きもさりながら、ともかく肌身に合い、血を湧かせるからだ、といいた い。まず愛することを率直に肯定したい。
ともかく、愛することから出発し、愛する証しとしても、現在ただいまのわれわれの感情や思想を、自由に、しかも一人一人の個性を百パーセント発揮するかたちで、この愛人に投入してみたい。愛人の過去に拘泥するよりも、現在のわれわれの詩藻の鮮度によってこの愛人を充たしてやりたい。これが、本当の愛というもの
ではないか。
だから、くどいようだが、何よりも自由に個性的に、この愛人をわれわれの一人一人が抱擁することだ。愛人はそのうちの誰に本当のほほえみを送るか、それは各人の自由さ、個性度、そして情熱の深さによることだと思う。
このため、われわれは、この愛人にかぶせ られている約束というものに拘泥したくない。ここに季語・季題という約束がある。この約 束が長い年月形成してきた自然についての美しく、含蓄に富んだ言葉の数々は、立派な文化資産であっ
て、確かに俳句の誇りである。
愛人は美しい自然の言葉によって装われ、また自ら美しい言葉を産みつづけ
た。しかし、現在ただいま、愛人を依然として自然の言葉だけによって装うことは、かえってこの人をみすぼらしくすることではなかろうか。自然とともに、社会の言葉でも装ってやりたい。
自然と社会の言葉によって、絢爛と装い、育ぐくんでやりたい、とわれわれは
願う。最後にいいたい。最高の愛し方は、純粋に愛するということだ。愛人を取り巻く、いわゆる俳壇政治なるものは、いつの世にも愚劣であるが、いつまでも絶えることがない。
われわれは、この政治や政略の外に愛人を置いてやりたい。俳壇政治を無視
して、純粋に愛してゆきたい、と願う。
愛人に向って、われわれは、現在ただいまの自由かつ個性的な表現を線返し、これによってこの美しい魔性を新鮮に獲得しようという わけなのだ。
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