金 子 兜 太
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皆川 燈 「らん」
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らん2010 winter 48号 リリックワルツ 皆川 燈
月下美人咲く父母はうつらうつら
糟糠の自木蓮をかき抱く
溺愛の針で掬わん黄落期
いもうとをそっと取り出す秋の崖
甘納豆ふりむきざまに想い出へ
散りながら飛魂抱きとむ山茶花は
石たたきレテの河原の陽だまりを
月夜茸ふうわりひらく向こう岸
ローズマリーの小枝は愛にしのばせて
からころと修道院へ紛れ込む
真っ白な風船なれば飛び立てず
ササガキノカソケキ音ノセナカカナ
やさしさが吹かれる秋に橋かけて
先の世へ旅立つ一丁のリラとして
リリックワルツさびしさは汗とびちらせ
流れゆく野菊についに追いつけず
身中の沼も暮れたり雪くるか
らん 2009 autumn 47号 神の遊び場 皆川 燈
繭こもる剃那夜汽車が遠く行く
飛ぶ夢をいくたび見Lや繭ごもり
昼顔に感電せしものこの指止まれ
音立てて虹の生まるる水際あり
草の香の濃くなる乳と思いおり
野菅草咲きみちて神の遊び場は
夕顔の実の透きとおるまで散歩
らん2009summer 46号 チェーホフ峠 皆川 燈
霧の窓みがけば滾々と霧湧く
言葉よりずっと遠くへカンパネルラ
チ ェーホフ峠を下るたましいは瀟洒
置き去りにされ薔薇売となりたるか
少年の叫ぶギリヤーク語かおる
夢の小鳥へ繁縷を摘むもっと摘む
百年前の柳架飛びくる鈴野原
らん
44号
理想郷
毯転げ出でて熱砂を驚かす
前の世へ電話かけたい小さな入江
鉄砲百合ともして待っている岬
夕凪げばはねる魂ひかる魂
老鷺の啼きかうここが理想郷
朝鮮の水はあまいか梅花藻なびき
葡萄蔓ゆらして明日も山猫は
2008
雨に樹に寄せる片歌 皆川 燈
ぼへみあん顎そらせば空がちかづく
うわの空水辺にあやめすっくと真白
五月美し坂の真上に風見鶏(とり)と生まれて
にひるかな紫陽花は今朝ももいろになる
こぼしたり生きるというはついばむに似て
あるこはるベランダを出て朧月まで
書いておく螢袋は訪わずにすぎぬ
関係のゆるき起伏に秋の七草
メタセコイア夜明けの端をささがきにせん
淋しさよ水中に立ち揺らぐモミの木
兎あおむき狸うつむきえごの花散る
透きとおるはずが青梅となってころころ
人が月に立った? 睡蓮が笑みこぼしたり
野に満つるやさしき音をたくわえて露
月の下 昨日の空はこの潮にあるよ
春の暮フルーツジュースこぼすあわれさ
まだ序曲蜘妹の囲に月ふんわりからみ
らん
41号 SPRING
琴爪は小箱を春といいはりぬ
林檎の香母方という彼方より
言の葉をあたためている梅林
佃島わあわあ死者が呼び止める
佃渡しははら陽炎の突き当たり
命ひしめく月島の舟だまり
梅咲くと路地から路地へ水から水へ
らん
2006年
may
33号
あらせいとうぽつねんとしあわせ
蜜吸いに来よと桜の揺れどおし
指に来し銀の小鳥を飼いならす
糸切り鋏ひそみし小箱詩の小箱
杏咲きほの暗き世をいぶかしむ
夏蜜柑灯るわたしの帰り道
からころ
皆川燈
小鳥うたうよ冬青空に愛されて
草花のように置かれて過去帖は
野菊道からころたずねゆかんかな
今朝の雨甘し苦しと冬の芽芽
ほろ酔いの父母を雪野へ返しやる
葡萄ひとつぶ人の世のいぶせさに
飛魂反魂地に勾玉の冬の海
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