金 子 兜 太
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句集
「三田の女」石井哲夫
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金子兜太序文より抜粋
石井哲夫という男は独特の資質の持ち主で、これを優れた資質などと言ったら、顔を赤くくして頻りに頭を掻くだろう。風変わりといいたい気持もあるが、もう少しまともな風情である。真面目といつてもよかろう。また個性的という言い方もできようが、こんな近代風な評言は、石井には筋違いの感じある。もっとと俗的で肉体的だ。
初めて会ったとき、色は生白いが、これが上州だとおもったことが忘られない。そして、
上州や三軒向こうで声がする
煙出しや冬中涙にむせし家郷
と言った作品を読んでますます上州とおもっていた。・・・・・・・・
石井には<さすらい>ということが体でわかっているらしい。さすらいが身にしみる者には照れ屋が多く、表現に当たっては戯けて見せることがふつうである。・・・・・
わざわざ「三軒向こう」なとど書くところが戯けである。読むほどにその可笑しささがただよう。しかし同時にいや少し送れて何とも言えぬ哀しみがにじみ出てくる。
塩野谷 仁選
青葉茂れば青く塗るやさしさあり
猫的な奴藪に居り早春なり
旅の男に材木匂う十三夜
生殖や冬田の上に月を乗せ
俳句的な穴あいており春の闇
「春」 春の大砲くわーんとぶちこまれる
煙なき煙突高し春の朝
人類は滅びつつあり木の芽山
老人は楕円に近づく春の家
「夏」 麦刈ってぐりぐりとごつごつと男
女は海に繋がっており花水木
母の育てる山羊想うかな帰省前
スタジアム僧が一人の涼しさよ
「秋」 大藪しいう歯科医院小鳥来る
紅葉かつ散る重金属に少女等酔い
コスモス鍵穴の如き落日あり
野分あと馬の不埒を詫びており
「冬」 悪党に艶が出て来る冬の月
消息やことんと枯葉ぽつりと石
赤飯提げ狐火見にゆく根拠かな
電柱に電球点す冬田かな
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